7. ロス手術について

 弁膜症の手術にRoss(ロス)の手術というものがあります。1960年代にDonald Rossという心臓外科医が考案して発表した手術です。

この手術は、ある種の大動脈弁疾患に対し、主に若年者(特に小児)を対象として行われます。

方法は、悪くなった大動脈弁を自分の肺動脈弁で置換する(取り替える)という手術です。そして取り除かれた肺動脈弁にはホモグラフト、あるいはステントレス生体弁、または手作りの弁付きパッチを縫い付けます。

ごく簡単にイメージをスライドにしてみました(下の動画)。ただしこれはあくまでもイメージで、実際は広範な剥離や冠動脈の処置があり、かなり複雑な手術です。


この手術は特殊な手術で、行われている施設はかなり限られています。どう特殊かというと主に次の3点が挙げられます。

1. 手術手技が複雑で難しく、患者さんへの侵襲が大きな手術だということ

2. 大動脈弁を、自己の別の弁(肺動脈弁)で取り替えるため、成長が見込めるという大きなメリットがある反面、将来的に逆流や狭窄が進行する可能性も大きい

3. 取り去った肺動脈弁には、通常欧米ではホモグラフトが使用されているが、本邦ではそれの入手、使用が容易でないため、ステントレス生体弁や、手作りの弁付パッチを使用するという不都合な点がある(耐久性や機能に問題があるということ)

 したがってこの手術を行うのは、大動脈弁置換術を行うに際して、生体弁にせよ機械弁にせよ人工弁をどうしても使いたくない場合か、使うことが困難な場合に限られます。

具体的には、
1. 小児で既存の人工弁のサイズが合わない場合

2. また仮に最小のサイズが入ったとしても、成長を考慮するとすぐに合わなくなってしまう場合

3. 重症感染性心内膜炎によって大動脈弁の周囲に膿がたまり、異物による(機械弁にせよ生体弁にせよ)大動脈弁置換術を行いたくない場合

などが該当します。
 それ以外、特に成人でこの手術がどうしても必要なケースは基本的にはないと筆者は考えています。