■病院の選び方■
日米の医療システムの違いについて解説し、日本での賢い病院(医者)選びを提案してみました。
1. 日本の医療システムは良いか悪いか? 2. アメリカの医療
3. 「名医」は本当に名医か?

1. 日本の医療システムは良いか悪いか?

 まず、患者さんが日本の医療に対し抱いている、ある種の誤解を解いておきます。

 それは「日本の医療費は高い」という誤解と「日本は欧米先進国に比べ医療が遅れている」という誤解です。

 まず前者に関して。国際的に医療費を比較すると(1996年度のデータ)、日本の一人あたりの医療費は世界第七位(スイスが一位)、GDP(国内総生産)との比率では世界第十九位(アメリカが一位)です。国民ではなく患者一人あたりの医療費にすると世界でも最下位に近くなります(患者数が多いため)。例えば盲腸の手術を受けたときの医療費を国際比較したデータがあり、それによるとニューヨークでは一日の入院で約250万円、東京では七日間入院して約40万円だそうです。

 次に後者の誤解に関して。確かに特定の分野における技術の後れはあるかもしれません。しかし患者サイドから見ると日本ほど利便性が高い医療システムを持つ国はありません。国民皆保険制度のおかげで、患者さんの自由度が他の国に比べて極めて高く、原則的に誰でもどこの医療機関にもかかることができます。また、現在の医療法では営利目的の医療機関は禁じられており、患者さんはおしなべて平均的医療を受けられるのです。このシステムを好ましいと思うかそうでないかは国民それぞれの価値観の相違でしょう。

 心臓血管外科の分野はどうでしょうか。日本での最近10年ぐらいの進歩はめざましく、世界レベルであると個人的には信じています。確かに、一人の外科医が行う手術の数が欧米に比べ少ない、という事実はあります。しかし最近は、外科医が純粋にその能力によって評価される時代になり、ある種の市場原理が働き次々と優秀な外科医が出現しています。

2. アメリカの医療

 現在のアメリカの医療システムは決して誉められたものではありません。マネージド・ケアと呼ばれる保険制度の弊害により、医療の内容が民間保険会社によって決められてしまうという事態が生じています。保険会社との契約にない手術は自費でない限り受けられないのです。

 少し前のハリウッド映画でデンゼル・ワシントン主演の「ジョンQ」というのがありました。デンゼル・ワシントン演ずる工員ジョンの息子が重い心臓病にかかり、余命数ヶ月と宣告されます。助かるためには心臓移植しかありません。しかしHMOと呼ばれるジョンの民間医療保険プランでは費用がカバーされていない手術のため、病院側は勧めないのです。移植を受けるためにはまず患者リストに登録するだけで4万ドル、手術に25万ドルの費用がかかります。病院はローンを認めてないためジョンには支払うことは不可能なのです。追いつめられたジョンは、銃を持ち出し、心臓外科医と数人の患者を人質に病院に立てこもり、息子の移植登録と手術を迫るという、かなりドラスティックなHMO批判のストーリーです。

 アメリカでは現在約4000万人以上の国民が医療保険に加入していないという事態が生じています。これらの人々は移植どころか盲腸の手術も満足に受けられないのです。一方、日本では保険を持っていない人でも、救急車を要請すればいつでも無料で駆けつけてきてくれます。しかも救急隊には搬送義務があるため、必ずどこかの医療機関に運ばれ、医師の診察を受けることが出来ます。どちらが良いとか悪いとかの問題ではなく、それが現実だということです(始めへ)。


3. 「名医」は本当に名医か?

 最近はよく雑誌の特集などで、日本の名医100人とか、優良病院ベスト100とか銘打ってさまざまな個人名、病院名がランキングされています。分野別になっていて、心臓血管外科関連を見ると、概ね業界内でも有名で実績がある施設や外科医が挙げられていて、参考にはなります(ランクに漏れている優秀な病院や外科医もあり、その点不公平です)。ただこの手の特集に共通する欠点は、実際に患者さんがどうやって受診できるのか、方法論的なことが書かれてないことです。

 冠動脈バイパス術であれば、ほぼ100%循環器内科医から外科医へ紹介されます。弁膜症手術なども多くは内科医から紹介されます。よってこの内科医が信頼するに足る医師であることが、同時に紹介先を信頼してよいひとつの条件です。一方、内科医が外科治療そのものを低く見なしているような発言をしたり、外科治療の適応と判断された時点で突き放すような態度を取ったりした時は、その内科医自身を信頼しない方がよいと思います。また、実際に外科医に会ってから、あまり自分と合わないと感じるときもあるでしょう。不安感を持ちながら手術に突入するのは好ましくありません。そういった時に雑誌のランキングなどを参考にするのも良いと思います。

 実際にはどうのようにアプローチするのがよいのでしょうか。

 ひとつは、それまで診てもらっていた内科医に尋ねてみて、紹介状を書いてもらうのが最も手っ取り早い方法です。紹介状と検査結果を持参して予約受診すれば、比較的早く話が進みます。このアプローチの欠点としては、実際に外科医に会ってから、その病院や外科医がいまひとつ気に入らなかった場合、断りにくいことなどがあげられます。

 また直接アプローチする手段があります。この場合、まず病院に電話で問い合わせてみるのが通常の方法です。雑誌で見たこと、心臓血管外科の◯◯先生にかかりたいことなど伝えます。この時の対応がスムーズかどうか、誠意があったかどうかなどで、病院の体質がわかります。
 病院の担当科や担当者に直接手紙やメールを送る方法もあります。こうした患者さんを多く受け入れている病院では対応が早く、すぐに担当者から連絡が来ることがあるかもしれません。ただ、手紙の内容が適切でないなど、さまざまな理由から受け入れてもらえない可能性もあります。これらのアプローチの欠点は、もう一度検査を一からやり直すなど、時間と費用がかかることがある点です。

 いずれにせよ、患者さん自身充分に納得してから手術を受けるべきで、またそういった姿勢が外科医側の緊張感を育むものだと思っています。