中頭病院心臓血管外科
■心房細動の外科治療■
1.心房細動という不整脈について 2.心房細動の外科治療について

1.心房細動という不整脈について

一口に不整脈といっても、さまざまな種類と重症度があります。その中でも比較的多く認められる不整脈が「心房細動」です。正常の心臓は、心房から心室と1対1で拍動の連鎖が起こります(左図は正常の心電図です)。この拍動の指令を出している部分は(目に見えませんが)右心房にあり「洞結節」と呼ばれています。この司令塔から一種の電気が生じて、心房と心室の間にある「房室結節」と呼ばれる中継点にたどり着き、その後心臓全体に行き渡り、心室が収縮(拍動)します。これらの経路は「刺激伝導系」と呼ばれ、洞結節から生ずる一連の正常なリズムを「洞調律」といいます(左図)。

心房細動とは、洞結節が正常に働かないで、心房全体が痙攣したように細かく収縮(細動)している状態で、心室はそのうちのどれかが伝わって収縮(拍動)することになります。すると脈(=心室の収縮)は完全に不整(不規則)になり、心電図に表れてくるのです(下図)。



心房細動にもいくつか種類があります。

ひとつは「発作性心房細動」といって普段は正常の洞調律リズムで打っている心臓が、何かのきっかけで突然心房細動リズムになってしまうものです。多くは脈拍数が速くなり動悸や気分不快などの症状を伴います。

また「慢性心房細動」といって、心房細動がある時から固定してしまった状態があります。

さらに、心房細動は「孤立性心房細動」といって、他に心臓の病気がまったくない場合もありますが、一方で他の心臓の病気を合併していることも少なくありません。頻度が多いのは僧帽弁膜症です。僧帽弁の場合は逆流や狭窄による心臓への影響(左心房への負荷)で結果的に心房細動になってしまう経過がよく知られており、これは僧帽弁の手術時期を決めるひとつの判断材料になっています(つまり心房細動になる前、或いはなった直後に手術をするなど)。また心房細動と大動脈弁膜症を合併している場合や、心房細動と虚血性心疾患、その他の心疾患との合併も見受けられます。


心房細動の症状ですが、前述したように発作性で脈拍数が多くなれば、動悸や胸部圧迫感、気分不快が出現します。また長い年月孤立性心房細動で、心機能が良ければまったく症状がない患者さんも多く見かけます。心疾患を合併していれば、当然それに伴う症状が出現します。僧房弁逆流があっても正常な脈(洞調律)で症状がほとんどなかった患者さんが、心房細動になった途端に心不全で倒れてしまうことがあります。大動脈弁狭窄症の患者さんでは速い脈の心房細動になると、時に致命的にもなり得ます。

さらに注意すべき合併症は「血栓塞栓症」です。これは心房細動で左房の中に血の固まり(血栓)ができ、それが心臓から飛んで頭や臓器、足などに詰まってしまう病態です。頭に詰まったら脳梗塞になってしまいます。


次に、心房細動の治療です。まず薬物療法が第1選択になります。特に発作性心房細動でその頻度が多い場合には、抗不整脈薬(さまざまな種類があります)と血栓塞栓症の予防が重要になります。また慢性心房細動で症状がなければ血栓塞栓症の予防が治療の主体になります。他の心疾患を合併している場合は、当然その治療が考慮されます。

さて、次に薬物療法で十分な治療効果が得られなかった場合に、カテーテルによる治療外科的な治療が考慮されます。
まずカテーテルによる治療ですが、これは心臓カテーテル検査と同様の手順で、足の付け根の血管などから細い管を心臓まで通し、心房細動の原因となっていると思われる心臓のある部分を電気的に焼灼「しょうしゃく」と読みます)方法です。これは「カテーテルアブレーション」と呼ばれています。この方法は別の不整脈に対しては確立された治療法となっています。心房細動に関してもさまざまな器具の開発が行われ、徐々に普及されており今後さらに発展していく治療法と言えるでしょう。