患者にも外科医にも怖い病気、「大動脈解離」を解説しました

2. 大動脈解離

   定義 / 分類 / 症状 / 手術の目的 / 成績

■大動脈解離(だいどうみゃくかいり)とは

 大動脈の壁は内膜、中膜、外膜と三層構造になっています。解離とはこの壁が動脈走行に沿って二層に剥がれ、二腔となった状態をいいます。剥がれるきっかけとなった部位には、内膜に裂け目が出来ていて、本来の血液の通り道(真腔といいます)と新たに出来た通り道(偽腔といいます)の間に交通があります。偽腔側が膨らんで「瘤」状となった時に「解離性大動脈瘤」と呼びます。

 明らかな発症原因は不明ですが、高血圧が重大な危険因子です。

 この病気は、解離が生じた部位と、発症から経過した時間(時期)によって分類されます。





■分類

部位による分類

 部位と範囲によって治療方針が異なってきます。上行から胸部下行大動脈に及ぶもの、上行大動脈に限局したもの、胸部下行から始まるもの、腹部にまで及ぶもの、などと分類されています。腹部から始まる解離はきわめてまれです。

時期による分類

 発症から2週間以内を急性期、それ以降を慢性期と分類します。2週間から3ヶ月を亜急性期と呼ぶこともあります。まれに発症時期不明な場合もあります。

■症状

 多くは発症時に胸部や背部の激しい痛みを伴います。まさに「引き裂かれるような」痛みと訴える患者さんもいます。また、解離の部位によりさまざまな臓器の合併症が引き起こされることがあり、多彩な症状を示します(心不全心筋梗塞意識障害腹痛下肢痛など)。原因は、臓器の血流障害です。このことが大動脈解離の診療において最も厄介で、そして神経を使う点でもあります。特に腹痛足の痛みが主な症状の場合、診断が遅れることもあります。

 慢性に経過したものはほとんど症状はありません。




■治療方針

 一般的に、急性期で上行大動脈が解離していれば、緊急手術の対象となります。下行大動脈から始まる急性解離は、安静、血圧管理などの内科的治療(保存的治療)になります。ただし臓器の合併症を起こしていたら手術が考慮されます。また、血管外へ血液が漏れたり破裂したときも当然緊急手術の適応になります。

 急性期に手術が行われなかった場合、あるいは発症時期不明で偶然発見された場合が慢性期になります。前者の場合が多いため、主に下行大動脈解離がその対象となります(大動脈弓部が含まれることもあります)。この場合の手術の適応は、瘤となった場合(つまり「解離性大動脈瘤」)で、大動脈瘤の手術適応に準じます。まれに慢性期でも臓器の合併症を起こすこともあり、手術が考慮されます(始めへ)。

■手術の目的

 必要な範囲を人工血管で置き換える手術を行います。手術の目的は、臓器の合併症を予防し改善させること、および破裂の予防です。ただし大動脈瘤と異なるのは、この目的のために解離している部分を全部取り替える必要がないことです。始めに記したとおり、解離にはそのきっかけとなる内膜の裂け目があります(エントリー、テアーなどと呼びます)。その部分を人工血管で置き換えれば、理論的には解離の進行は防げるわけです。また、慢性期の解離性大動脈瘤の場合、拡大している部分を取り替えればよいのです(解離していても拡大していない動脈はそのままでよい)。

■手術の方法、合併症

 大動脈瘤に準じます。

■手術の成績

 急性期で緊急手術を行った症例はいまだに成績が良いとは言えません。2001年の統計で、例えば緊急上行大動脈置換術の死亡率(術後1ヶ月以内死亡)は11.2%です。ちなみに2000年統計では17.7%で、かなり改善はしています。慢性期の手術でも胸腹部の場合、死亡率13%、入院中死亡率21%と高率です。