3. ステントグラフト内挿術について

 90年代初頭、大動脈瘤を「切らずに治す」方法が開発されました。これは足の付け根の動脈から細い管を入れ、その中をステントグラフトと呼ばれる折り畳まれた特殊な人工血管を通して動脈瘤の部位で広げる治療です(下図)。近年日本にも導入され、さまざまなバリエーションで行われています。

  

 当サイトを立ち上げたのが2004年ですが、当時から現在(2011年8月)までに本邦におけるステントグラフト治療は段階的な発展を遂げてきました。2006年に腹部大動脈瘤のステントグラフトが、そして2009年5月には胸部大動脈瘤のステントグラフトが保険適応となり、正式に医療保険で行われる治療となりました。
 この方法が可能であれば、胸やお腹を切る手術に比べ極めて低侵襲の治療方法となりますが、すべての大動脈瘤に可能なわけではありません。腹部大動脈瘤胸部下行大動脈瘤に対する手技はほぼ確立された内容となっている一方で、上行大動脈、弓部大動脈、胸腹部大動脈はいまだ様々な方法が模索されている段階です。また、大動脈の屈曲、蛇行(くねくねしている形態)が著しい場合や、ステントグラフトを挿入する足の血管が閉塞している、あるいは細い場合も治療は困難となります。
 また、この治療は外科的手術と異なる特殊な技術が必要で、一定のトレーニングが必要なことも条件となります。行える専門医は心臓血管外科医血管外科医、あるいは放射線科医になります。この治療に関連する学会は、安全性を重視して、行える専門医と施設(病院)に一定の基準を設けています。したがってどこの病院でも出来るわけではありません。詳しくはそれぞれの病院に問い合わせてみる必要があります。
 心臓血管外科に限らず外科系全般的な傾向として「なるべく切らない」「侵襲が少ない」手術の開発が進んでいる状況を考えると、今後ステントグラフトの出番はさらに増え続けると思われます。