最近めざましく進歩している大動脈基部の手術について概略しました

6. 大動脈弁温存手術

 さて、大動脈基部の病気で、大動脈弁そのものは悪くなっていないという状況があります。例えば上行大動脈瘤で、大動脈拡張のために(弁を支える構造が崩れてしまい)弁の逆流が生じてしまった、などという場合です(下図)。大動脈弁輪拡張症による大動脈弁逆流も、一部の症例がこれに該当します。

 こうした症例で、自己の大動脈弁を温存する、つまり大動脈弁を取り替えない手術が行われています。主に2種類の手術方法があり、考案した外科医の名前がつけられ、それぞれDavid(デイヴィッド)手術、Yacoub(ヤクー)手術と呼ばれています(下図)。

 この方法は人工血管で上行大動脈を置換するのですが、上行大動脈の根元にある「バルサルバ洞」という膨らみの一部も人工血管で取り替えて、冠動脈もそこに縫いつけるという(ちょっとわかりにくいと思いますが)方法です。

この手術は自己の大動脈弁が温存されるため、大変有意義な手術です。対象疾患が限られ、特殊な技術を要しますが、例えば20歳代、30歳代などの若い患者さんには適応があれば積極的に行われるべきでしょう。

人工弁ではないため、将来的に大動脈弁の逆流が再発することが問題となりますが、仮に10年保証されるとして20歳代の方が、10年間ワーファリンから解放されて生活出来るとしたら、再手術を覚悟しても尚意義ある術式だと考えます。