バイパス手術の具体的な方法を解説します
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1. バイパス手術の実際

■手術の原理

 狭くなったり閉塞している冠動脈の先に別の血管(グラフトと呼ばれます)をつなげ、血液がその道(バイパス)を通り、これによって血流の少ない部位により多くの血液を流してあげるのがこの手術の原理です。それにより心筋の血流不足(酸素不足)による狭心症が改善され、また狭い部分が閉塞しても心筋梗塞になりません。つまり命綱になるわけです(左図)。

 英語の略でCABG(Coronary=冠動脈、Arterial=動脈、Bypass Grafting=バイパス手術)と呼ばれています。

■手術の方法

 大きく分けて2つの方法があります。1つは人工心肺装置という器械を使用し、心臓を止めて手術を行う方法です。もう1つは、人工心肺装置を使用せず、心臓が動いたまま行う方法です。後者の事を「off-pump CABG」(オフポンプ)といいます。Pump(ポンプ)とは人工心肺装置のことで、off=「使わずに行う」との意味です。前者(人工心肺法)はオーソドックスな方法で、日本での歴史も30年以上あります。後者は90年代後半から急速に普及した方法です。

 それぞれの方法の特徴をまとめてみます。前者は確立された方法であり、手技としての完遂性が高く、後者に比べたら容易であるというのが特長です。反面、人工心肺という、人体に侵襲ある操作が加わります。一方、後者(オフポンプ)はその人工心肺を使用せず、心臓が動いたままで行うため、全身への侵襲は少なくて済みます。しかし手術を完遂するにはある程度の技術を必要とします。もちろん、人工心肺法でも難しい症例や、オフポンプ法でも容易な症例はあります。詳しくは「off-pump CABGについて」をお読み下さい。

 いずれの場合も手術は全身麻酔で行います。胸の中央に縦にメスが入ります。その下には胸骨という骨があり、これも縦に切断します。すると心膜という厚い膜が出てきて、これを切開して心臓に到達します。さて、次に人工心肺を使用する場合は、心臓の各部へ管を入れ、器械をつなげて心臓を止める準備をします。詳しくは「人工心肺法と心筋保護について」をお読み下さい。こうして心臓が止まっている状態で、その表面にある冠動脈に別の血管をつなげます(始めへ)。

 このバイパスに使う「別の血管」としては、肋骨の内側にある左内胸動脈または右内胸動脈(下図1)、胃の脇を通っている胃大網動脈(下図2)、左手の肘から手首にかけてある橈骨動脈(下図3)、太股の内側にある大伏在静脈(下図4)があります。これらの血管をさまざまに組み合わせて手術を行うのです。

 この組合せに関しては、さまざまなバリエーションがあり、患者さんの心臓の状態、年齢、血管の性質など多くの因子を総合して決められます。また手術を行う外科医の得意、不得意、慣れ、不慣れなども当然関係してきます。このバリエーションを個々の症例に適用し決定していくのが、冠動脈外科の醍醐味のひとつであり、同時に手術の成否に関わる重要なファクターにもなるのです。スタンダードがあるとしたら「左内胸動脈」で、特別な理由がない限りは常に使われると思ってよいでしょう。